つかのま。

読書と日々考えたこと

村山早紀『さやかに星はきらめき』

人生の最適なタイミングで読めたな、と思える本は大切な本になる。これまでだと例えばレイ・ブラッドベリの『たんぽぽのお酒』を子どもと大人の境目の気分だった高校生頃に読めたのがとても良かった。
この『さやかに星はきらめき』も、今年、このクリスマスに読めてとても良かった。

人類が地球に住めなくなった未来、旧来の人類、猫や犬が進化したネコビト・イヌビトや地底のトリビト、新しい隣人の異星人たちがともにくらす宇宙。『人類すべてへの贈り物となる本』のために集められたクリスマスの民話を巡る短編連作集。発売直後に買ってはいたものの、今日まで読まずにとっていた。
主人公のネコビト編集長・キャサリンをはじめ、本や物語に関わる人たちの愛と願いと祈りのお話。


クリスマスイブだから今日読んで良かった、というだけでなく、多分“今年”じゃなきゃ読めなかったなぁ、と思った。

今年一年を振り返る記事は年末に書こうと思っていたけど、今年は自分の中でちょっとした区切りになるような年だった。
これまで自分で見ないふりをしてきたことや色々言い訳して逃げてきたことにしがみつき直してみて、いくらかマシな自分になりたくて色々とやってみた。
このブログを始めたのもその一環。

そして、実は公立図書館の採用試験を受けていた。
通信の司書課程を始めたときには「とりあえず資格をとっておくだけ」なんて自分にも言い訳してたけど、勉強していくうちに、図書館にまた通えるようになっていくうちに、やっぱりここで働きたいと思ってしまった。ずっと諦めていたけど本当は昔からの夢だった。
受験を決めてから約半年、これまでの人生で多分一番頑張ったけれど、駄目だった。
結果発表は今月中旬だった。ブログをしばらく書けなかったのも結果を飲み込むまでに少しかかったから。

この自治体は年齢制限の都合で今年が最後のチャンスだった。他にも受けられる自治体はあるのだろうけど司書として働けるならどこの自治体でもいいわけではなかった。
行政職で合格したとして短期間での異動が基本なのも知っていた。
自分の人生設計を考えるとやっぱり非正規雇用の道は選べなかった。
だから、今回の不合格で「公立図書館の正規職員司書になる」道は私の中ではもう“不可能なこと”になった。今度こそ本当に、客観的事実として。

本気でなりたかったから不合格でボロボロ泣いてしまったけど、同時にすっきり割り切れてもいる。この半年は本気だったから。
これまではチャレンジすらせず「やったらほんとはできるかも」の可能性を残してすがってきたけど、最終面接まで残って、これ以上は出来なかったと言うくらいにきちんとやって駄目だったから、薄々感じてはいた自分の適性のなさ・相性の悪さを実感して、受け止められた。
落ちたら図書館や本からまた逃げたくなってしまうのではないかと怖かったけど、そんなことにはならなかったので安心してもいる。

『さやかに星はきらめき』には本や物語、出版社や書店、そして図書館をとりまく人たちの愛が溢れている。多分、司書にチャレンジもしないまま小骨を喉に引っかけ続けていた状態だったら、この本は苦しくて読めなかった。だから今年じゃなきゃだめだった。今年だったから、素直に月面都市の中央図書館に行ってみたいなぁと思えた。本や物語のもつ力に実感を込めて頷きながら読めた。


それと、実はここ数年、村山早紀作品を読むのが怖かった。あまりにも眩しくて暖かかったので。
元々『シェーラひめのぼうけん』や『魔法少女マリリン』シリーズ、『はるかな空の東』が大好き。特にシェーラは本当に大事な本で、愛蔵版がでたのが本当に嬉しい。はる空も文庫化・書き下ろしがとても嬉しかった。他にもやまんば娘(海馬亭)、人魚亭、ちいさいえりちゃん、学校図書館にあった本は片っ端から読んでいた。
でも、一時期読めなくなっていた。きっかけは高校の頃、『コンビニたそがれ堂』が学校図書館にあるのを見つけて読んだ時。すごく素敵な物語だと思った。優しくて暖かくて強さがあって、「あぁ、私はこの人達のようには生きられてないなぁ」と思ってしまって、少し苦しくなってしまった。好きな作家さんの作品を読んで苦しくなるのが怖くて、避けてしまった。
そんな汚い自分が嫌なら変わる努力をすれば良かったのだけど、それが出来なかった。この辺の話は近々読み返そうと思っているたつみや章月神の統べる森で』の記事を書くときにまとめようと思けど、同作のホムタなんかに自分を重ねてグズグズになってた頃だった。ちょっと健全じゃなかった。

しかし、今年一年自分なりに足掻いてみて、少しでもマシな自分になろうとしてみて、ちょうど採用試験の結果が出る頃にこの本が発売されると知って、「今なら読めるのかも」という手応えがあった。
「司書になれたら読めるのかも」とも思ってしまっていたが、そんなことはなくて、不合格でもちゃんと読めた。
これもまた、自分の中でのひとつの区切りで、読めたことが本当に嬉しい。ほっとしている。ちなみに月神でもホムタに自分を重ねるよりも素直にアテルイらのように生きたいなと思えるようになっているのを実感している。


そんなこんなな読み方をしていたから、余計に最終章の「いつかより善き者になりなさい」という言葉にワンワン泣いてしまった。
私も優しいお話を読んでもよいのだと思った。今はまだそうでなくても、せめてそのように在ろうとしてもよいのだと思った。
赦しの物語、ああ『クリスマス』のお話だ、と思った。


優しいお話だが、決して都合の良い世界ではない。
人間は住めなくなるくらい地球を滅茶苦茶にしてしまったし、イヌ・ネコビトたちの進化過程での偏見や差別もあった。植民惑星の厳しさも、地下に生きる『わけあり』の人たちもいる。故郷を失ったリーリヤは神を信じないと言う。
世界は都合良くなどないが、奇跡も神秘もないかもしれないが、ひとの願いや祈りは世界を変えうる。物語となって誰かに届く。
少し前の記事で書いたけど、そういえば本気でサンタさんへの手紙に「世界が平和になりますように」なんて書いてた子どもだったなあと、改めて思い出したりして。
疫病も戦争もすぐ近くにある今、ベツレヘムでのクリスマス行事が中止になったりするような今。今年のクリスマスに読めて本当に善かったと思った。