つかのま。

読書と日々考えたこと

墨香銅臭『天官賜福』1〜3

ちょうどいいタイミングで邦訳版3巻が発売されたので、一気に3巻まで読了。

ネットで注文してから手元に届くまでの間にアニメも2期まで見たので、そちらもあわせて3巻まで時点の感想をば。

いつものようにネタバレありのブログですが、この作品もネタバレなしでジェットコースターを楽しむのが良い作品だと思っているので、よろしくお願いいたします。(3巻までしか読めてないのでネタバレ範囲もそこまでです)




同作者の『魔道祖師』よりもさらにファンタジー色が強めな印象のシリーズ。主人公たちは800年生きて(?)いる神と鬼。世界観や「神」の設定は道教的な雰囲気がベースなので、道教関係の本もあわせて読んで解像度をあげている。

アニメは原作をかなり丁寧になぞっていて、2期計2クール分で原作だと2巻の前半までしかカバーしていない。全6巻なのにすごいペースである。流石にアニメで完結させる気があまりないのでは…?と思ってしまうが(サブタイトルも決め台詞的なもので締めちゃってるし)、その割にはアニメ用の再構成なんかもあまりないので、アニメ単体で見ると回収されてない謎が残ったりする。やっぱり誰かにこの作品をすすめるなら小説から…になるかなと思いつつ、原作のなぞり方は相当丁寧でアニメとしてもずっと画面が綺麗で良いので、アニメから入ってもらうのも有りかも。


アニメを見てた時点で気になっていたキャラは郎千秋と風師(師青玄)。あと慕情。

明らかに太子殿下への複雑感情を拗らせている慕情はアニメでの表情が面白く、この人の拗らせ感情をもっと知りたい…というタイプの気になり。過去編での少年兵のあたりでふと察したのですが、花城との因縁もあるな…?苦しい状況で殿下に見出されて救われて、という境遇がわりと似ている二人。3巻までではまだ深淵を覗いていなさそうなので今後が楽しみ。

風師と千秋についてはもっと素直というかシンプルに「好ましい」という感情を抱くタイプ。こういう、明朗快活めの義侠心あるキャラクター、好きなんです。大概ある曇らせ展開とそこからの立ち上がりも含めて…。セオリーどおり(?)曇らせはあった。立ち上がりがあるのかないのか、それが問題だ。

アニメでは郎千秋が心配な状態のまま終わってしまい、さらに原作では少なくとも3巻までは特に進展がないんだけど、彼についてはなんだかんだ大丈夫な展開なのでは…?とまだ期待を持ってみている。魔道祖師でも江澄や金凌は大丈夫だったので。千秋の問題は原因に太子殿下が関わっているので、解決しないとちょっと後味悪いよねというのもある。

千秋の真っ直ぐさがわかる台詞が好き…。「私が飛び出さなければ、他に誰も飛び出さなかった」とか、「友なら騙してはいけない」とか、「貴様のように恨みや憎しみに支配されたりはしない」とか。千秋がこうも真っ直ぐ育ってくれて嬉しかっただろうな、殿下。だからこそ殿下は千秋にそのままでいてほしい、何も知らず…と思ってしまうけどそんなことを許せない花城。

実際、「無知ゆえに正しい相手を恨めない」というのは千秋にとっても悲劇寄りだよなと思う。芳心国師一人を悪者にしてもう復讐も果たしたからこれで終わりとしたとして、一方で本当は恨むべき安楽王のことはずっと親友だと思ってて。安楽については殿下がケリを付けたけど、お互い知らぬところで戚容は何の咎めも受けていないし。そんな状態に千秋を留めおこうとしてしまうのは殿下のエゴだよなと。真実を知ったら千秋は余計に苦しむんじゃないか、というのも千秋を舐めてるともいえる。真実を知ってそのうえでどう生きるのかを選ぶ権利は千秋にある。

このあたりから過去編にかけて太子殿下の『問題点』が浮き彫りになってくる。衆生を救いたいというある種の傲慢、行き過ぎた自己犠牲。しかしその太子殿下の傲慢さ故に救われて800年想ってきた花城。

殿下、本気でこの時点でまだ全然過去の子供と花城が結びついてないんですか…!?紅紅児→廟の少年→少年兵ですらあやふや(全部花城ってことですよね??)な描写だったのでそういう人なのかもしれない。南風と扶揺についてもピンと来てないっぽいので…???天官賜福、『本当の姿』的なものをあちこちで描いてくるなという印象。


話は戻して、もうひとり気になっていた人、風師青玄。曇らせがあることについてはずっと警戒していたけれども、ここまで多段階でおとすとは思ってなくて…。3巻読み終わってからじっと青玄と黒水のことを考えている。正直彼が立ち上がる未来は見えてないです、ここから入れる保険はないと思います。藍曦臣という前例を思い出している…。

青玄に辛い展開があるとしたら兄か親友に裏切られるパターンだろうなとぼんやり思っていましたが、答えは「両方」でした。裏切りというかなんというかだけど。

愉快で明るくていい人な風師が白話真仙に本気で怯えているだけでも若干の曇らせが入っているのに、そこから攫われ、法力奪われ、兄のやらかしを知り…。ここでもう十分だよ!!と思いきや、さらに明かされる「明兄」の正体。そして兄の最期。もうずっとやめたげて〜…と思いながら読んでいた…。以来ずっと黒水と青玄のことを考えている。

ああいうことにならないための最後の岐路は、一度逃げ込んだ雨師のところから水師のもとに行くことを選んだところだったのかなと思う。青玄があそこで水師を選ばなければ黒水はひとりで水師を始末しにいって、その後は何も言わず正体も表さずだったのかも。

でもそのルートでもどうしたってもう本物の地師は死んでて、青玄の親友は最初からずっと賀玄で、どうしようもないんだよなぁ…という。私たち読者が知ってるいっぱい食べる「明儀」も、全部全部賀玄なわけ。本物の明儀は本編開始前に処理済みです、ならまだしも、半月関編が終わる頃までは一応生きているらしい。逆に辛い、私たちは何も知らず賀玄を「明儀」と呼んでいたのに。

水師を責めるなら、黒水が地師にやったことはどう違うんだ、という問題にぶち当たる。自力で飛昇した地師に成り代わってこれまで過ごしてきたのに。地師を殺さないで置いていたのはそのへんの意図もあったりしますか?花城は一応「本物の地師を殺したのが黒水かはわからない」旨を述べている…。


ずっとぐるぐる考えていても4巻以降はまだ日本語で読めないのでどうしようもない。今、繁体字版を集めているところ。中国語勉強します。