つかのま。

読書と日々考えたこと

船越義彰『小説 遊女(ジュリ)たちの戦争:志堅原トミの話から』

那覇市立若狭図書館にて。辻にほど近い図書館で読む。

(完全に不注意なのだが)「小説」の文字を見落としていて実録のつもりで読んでしまった。しかし、その勘違いのまま読み終えてしまえるほど真に迫っていた。

著者に元辻のジュリ・志堅原トミが自身の戦争体験を語るという構成。途中途中に実際の写真が挟まっていたり、著者が記録等を元に詳細な日時場所を推定したりといった部分があり、それが真実味を補強していた。

実際はモデルは一人ながらも複数人に取材したとあとがきにあり、複数人の体験談が一人の物語に集約されているのだとしても、あぁたしかにこういう人がいたのだろう、と自然と思える。

これまでにも沖縄戦関係の本は何冊も読んだことがあるし、平和学習も毎年のようにあった。その中で「辻のジュリ(そしてその後慰安婦になった人たち)」の視点で考えたことはなかったかもしれない。一人ひとりの戦争を改めて考えさせられた。小説ではなく元の取材の資料も気になるけれど、実名ではとても語れないのかもしれないとも受け止められるような、そんな重さの語りだった。

特に印象的だったのは清子だった。戦場のさなか紅型の着物で歌い踊り狂っていた清子。狂っているのに、ある意味で誰よりも正常に戦争を見ていたのかもしれない人。喜屋武で清子を探しに行かなかったことを語ったあと言葉が続かなくなったトミの描写。

今回、この本を若狭の図書館で読めたのがとても良かった。辻は若狭のすぐそこだ。まさしくここでトミたちは生きたのだと噛みしめるようにして読んだ。地域の公共図書館の意義を思いながら読んだ。